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東京地方裁判所 昭和57年(特わ)433号 判決 1982年5月31日

本籍

茨城県新治郡八郷町大字部原六一八番地

住居

東京都中野区東中野四丁目二九番六号

医師

真家進

大正一四年一月二三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官神宮寿雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人を懲役一年二月及び罰金三、〇〇〇万円に処する。

二  被告人において右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

三  被告人に対し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和二八年頃から、頭書住居地において、「真家医院」の名称で医業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  実際は昭和五三年中に行った不動産の譲渡につき、その売買契約を同五四年以降の三年間に分割して行うよう仮装することを買主との間で取り決め、その旨の覚書を作成し、かつ保険適用外の薬価代収入を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同五三年分の実際総所得金額が四、〇四五万一、六七一円、分離課税による不動産の長期譲渡所得金額が六、一七〇万円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五四年三月一三日、東京都中野区中野四丁目九番一五号所在の所轄中野税務署において、同税務署長に対し、同五三年分の総所得金額が四、〇三三万八、六九八円で、これに対する所得税額が一、四二四万九、八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和五七年押第六三一号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額四、〇一〇万九、二〇〇円と右申告税額との差額二、五八五万九、四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、

第二  株式売買取引を架空名義あるいは他人名義で行い、かつ保険適用外の薬価代収入を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

一  昭和五四年分の実際総所得金額が一億二、七三一万二、九二七円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五五年三月一一日、前記中野税務署において、同税務署長に対し、同五四年分の総所得金額が五、三一三万〇、九三九円、分離課税による不動産の長期譲渡所得金額が一、七九六万七、八九〇円で、これに対する所得税額が二、六三一万八、五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額七、六四一万五、〇〇〇円と右申告税額との差額五、〇〇九万六、五〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ、

二  昭和五五年分の実際総所得金額が一億二、八六五万〇、三三二円あった(別紙(三)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五六年三月一二日、前記中野税務署において、同税務署長に対し、同五五年分の総所得金額が五、九三五万四、一二六円、分離課税による不動産の長期譲渡所得金額が一、七四九万一、二五〇円で、これに対する所得税額が三、〇三八万七、〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額七、七六一万三、一〇〇円と右申告税額との差額四、七二二万六、一〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  真家織江、和田寛、鳥居省二、久下沼次男の検察官に対する各供述調書

判示事実とくに別紙(一)ないし(三)修正損益計算書中の公表金額及び申告所得額につき

一  押収してある所得税確定申告書三袋(昭和五七年押第六三一号の1ないし3)、収支明細書三袋(同押号の4ないし6)

右同修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき

一  保険診療収入調査書(右修正損益計算書(一)、(二)、(三)の事業所得欄勘定科目中の各<1>、以下番号のみを示す)

一  自由診療収入調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<2>)

一  雑収入調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<3>)

一  薬品棚卸高調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<4>、<6>)

一  仕入調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<5>)

一  租税公課調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<7>)

一  水道光熱費調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<8>)

一  旅費交通費調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<9>)

一  通信費調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<10>)

一  広告宣伝費調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<11>)

一  損害保険料調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<12>)

一  修繕費調査書(右同(一)、(二)の各<13>)

一  備品費調査書(右同(三)の<14>)

一  消耗品費調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<15>)

一  福利厚生費調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<16>)

一  諸会費調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<17>)

一  衛生費調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<18>)

一  検査料調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<19>)

一  登記費用調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<20>)

一  慶弔費調査書(右同(一)の<22>)

一  雑費調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<22>)

一  減価償却費調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<23>)

一  繰延資産償却費調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<24>)

一  給料賃金調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<25>)

一  退職金調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<26>)

一  支払利息調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<27>)

一  地代家賃調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<28>)

一  措置法差額(事業)調査書(右同(一)、(二)、(三)の各<29>)

一  租税公課(不動産所得)調査書(前記(一)、(二)、(三)の不動産所得欄勘定科目中の各<2>)

一  修繕費(不動産所得)調査書(右同(一)、(二)、(三)の同科目中の各<3>)

一  支払地代(不動産所得)調査書(右同(一)、(二)、(三)の同科目中の各<4>)

一  収入金(雑所得)調査書(前記(一)、(二)、(三)の雑所得欄勘定科目中の各<1>)

一  株式譲渡益(雑所得)調査書(右同(二)の同科目中の<2>)

一  通信費(雑所得)調査書(右同(二)の同科目中の<3>)

一  図書費(雑所得)調査書(右同(二)の同科目中の<4>)

一  保管料(雑所得)調査書(右同(二)の同科目中の<5>)

一  雑費(雑所得)調査書(右同(二)の同科目中の<6>)

一  譲渡益(株式譲渡所得)調査書(前記(三)の総合短期譲渡所得欄の勘定科目中の<1>)

一  通信費(株式譲渡所得)調査書(右同(三)の同科目中の<2>)

一  図書費(株式譲渡所得)調査書(右同(三)の同科目中の<3>)

一  保管料(株式譲渡所得)調査書(右同(三)の同科目中の<4>)

一  雑費(株式譲渡所得)調査書(右同(三)の同科目中の<5>)

一  特別控除額調査書(前記(三)の総合短期譲渡所得欄勘定科目中の<6>及び(一)、(二)、(三)の分離長期譲渡所得欄勘定科目中の各<4>)

一  収入金(不動産譲渡所得)調査書(前記(一)(一)、(二)、(三)の分離長期譲渡所得欄勘定科目中の各<1>)

一  取得価格(不動産譲渡所得)調査書(右同(一)、(二)、(三)の同科目中の各<2>及びその他の経費)

一  措置法差額(不動産譲渡所得)調査書(右同(一)の同科目中の<3>)

一  株式売買取引数調査書(前記(二)の雑所得欄勘定科目中の<2>及び(三)の総合短期譲渡所得欄の勘定科目中の<1>)

判示事実とくに別紙(四)税額計算書中の控除額につき

一  所得控除金額調査書

右同源泉徴収税額につき

一  申告控除源泉徴収税額調査書

(法令の適用)

一  罰条

判示各所為につき、いずれも行為時において昭和五六年法律五四号による改正前の所得税法二三八条、裁判時において改正後の所得税法二三八条(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による)

一  刑種の選択

各懲役刑及び罰金刑を併科

一  併合罪の処理

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重いと認める判示第二の一の罪の刑に法定の加重)、刑法四八条二項

一  労役場留置

刑法一八条

一  刑の執行猶予

刑法二五条一項(懲役刑につき)

(量刑の事情)

本件は、医師である被告人が昭和五三年から同五五年にかけて、保険適用外の薬価代をその都度控えて集計しておくことが煩瑣であるとしてそれを除外し、あるいは山林の売買や株式の売買に際し資産の蓄積を図る目的で脱税を行った事案であって、ほ脱額は総額一億二、三〇〇万円余の高額に上るうえ、ほ脱の割合をみても、保険診療収入分を除いて考えるとかなり高い。また本件犯行の態様をみても、保険証を持参した患者に保険適用外の薬を投与した際自由診療用のカルテを作成せず受領した薬価代を悉く除外し、あるいは三筆の山林を一括現金払で売却したのに翌年度から分離課税の不動産長期譲渡所得の最低税率適用金額が引き上げられるかもしれないことを知るやこれを三回に分けて売却したように仮装し、また株式の売買において年間の取引回数や同一銘柄の取引株数が非課税の範囲内に治まるよう多数の架空名義ないし他人名義を使用して操作したものであって、犯行は計画的で巧妙かつ悪質である。

以上の諸点を考えると、被告人の刑事責任は重大であるといわざるを得ないが、右山林の売買については買主側にも責任の一端があるものと考えられること、被告人は捜査段階から本件犯行を素直に認め、当公判廷においても再び犯行に及ばないことを誓約しており、本件につき修正申告をして本税、延滞税、重加算税等、地方税をも含めすべて納付済みであるほか、前記薬価代についてすみやかに事務処理態勢を改善するなど改悛反省の態度が顕著に認められること、被告人は今まで刑事責任を追及されたことがないこと、被告人が医師として永年地域住民の健康保持につとめた実績があること等有利な事情が存するので、これらの事情をも総合考慮して主文のとおり量刑し、特に懲役刑についてはその執行を猶予することとした。

よって主文のとおり判決する。

(求刑、懲役一年二月及び罰金四、〇〇〇万円)

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穂)

別紙(一) 修正損益計算書

真家進 No.1

自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

<省略>

修正損益計算書

真家進 No.2

自 昭和53年1月1日

至 昭和53年12月31日

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

真家進 No.1

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

<省略>

修正損益計算書

真家進 No.2

自 昭和54年1月1日

至 昭和54年12月31日

<省略>

別紙(三) 修正損益計算書

真家進 No.1

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

<省略>

修正損益計算書

真家進 No.2

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

<省略>

別紙(四) 税額計算書

真家進

<省略>

別表

分離課税の長期譲渡所得の税額計算書

<省略>

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